週刊文春のMASTERキートン記事は果たして真実か ~浦沢直樹・長崎尚志・雁屋哲をめぐる様々な噂 | 砂上の賃貸

週刊文春のMASTERキートン記事は果たして真実か ~浦沢直樹・長崎尚志・雁屋哲をめぐる様々な噂

5月19日発売の週刊文春に「超人気マンガ「マスターキートン」突如消えた不可解な理由」という記事が掲載されました。簡単な要約はnarinari.com人気マンガ「MASTERキートン」が絶版に至った理由。 に載っているので引用します。

・「MASTERキートン」連載当時、浦沢直樹氏は「YAWARA!」を並行連載していたため、編集部判断で勝鹿北星(菅伸吉)氏が原作者として付けられた。
・ただ、現実には勝鹿北星氏が話を作る機会はほとんど無く、主に浦沢直樹氏と長崎尚志氏が話を考えていた。
・そのため、浦沢直樹氏が「作家としてクレジットが載るのはおかしいから、名前をもう少し小さくして欲しい」と申し入れ。その際、印税比率についても話し合い、今後の増刷分に関しては勝鹿北星氏のクレジットを小さく印刷することで両者が合意。

ところが、話がややこしくなるのはここから。勝鹿北星氏と共に「ゴルゴ13」の原作を書き、古くからの「盟友」であった「美味しんぼ」の雁屋哲氏が「『勝鹿北星』の名前が小さくなることは断じて許せない」と小学館に強く抗議したため、小学館が増刷に踏み切れないというなりよ。本来ならば、そんな抗議があったとしても小学館と勝鹿北星氏の間で合意に至っていれば何の問題も無さそうなりが、残念ながら勝鹿北星氏は昨年12月に他界。当事者が亡くなられたことで、事態は小学館と雁屋哲氏との調整という、変な方向へと話が進んでしまっているなりね。

実際にコンビニで週刊文春を立ち読みして元記事を読んでみましたが、まあおおむねこのような内容でした。確かにMASTERキートンのストーリーを実質的に長崎氏が作っていたという噂は以前からあり、勝鹿氏の謎についてのエントリ を書くために色々調べていたときにも複数のところで目にしました。しかし、勝鹿氏が亡くなった今になってこのようなことになるというのが何とも不可解で、また、文春の記事はどうにも長崎氏サイドからの情報にばかり偏っている感があったので、ネット内を軽く検索して、MASTERキートン周辺の噂を調べてみました。

すると、とても気になるこんな話がすぐに見つかりました。元記事を直接読んだわけではないので孫引きの形になりますが、「噂の真相」2000年2月号に以下のような記事が載っていたようです。以下、「ダ-松の明日はこっちだ!」2000年1月10日の記事 から引用。

近年はめったに雑誌を買わなくなり「マスコミ評論」時代から買っていた「噂の真相」も、じじいの愚痴雑誌という意味では「週間新潮」とほとんど代わらない感じがしてきて定期講読を止め、時々スクープの時だけ買う事にしていたが今号は「スピリッツ」編集長更迭の裏側というのが目に止まり購入。内容は長崎編集長なる人物が以前「ビッグコミック・オリジナル」の「マスターキートン」の担当をやってた時代に原作・勝鹿北星という架空の人物をでっちあげその原作料を数年間に渡り自分の妻の口座に振り込ませていたというもので、その横領額3600万円!今になって発覚したのは、もともと浦沢直樹と仲が悪く「美味しんぼ」の連載を打ち切られそうになった雁屋哲が小学館の役員に働き掛け更迭させた、というおもしろすぎる話。しかもそれは小学館の2つの派閥の抗争に利用されたもの、という中島史雄氏が聞いたら「あ~、やだやだ」と嘆きそうな世間で時々耳にするどろどろした記事内容。

(強調および赤字は引用者によるもの)
 
ここで書かれている長崎編集長とはもちろん長崎尚志氏のことで、氏が以前スピリッツ編集長を務めていたこと、辞めたあとフリーの編集者になったことは事実です。原作料を自分のふところに入れていたという話もなかなか気になるところですが、それより驚いたのは、ここでもまた雁屋哲氏の名前が出てきたところ。もちろんこの記事が真実かどうかは定かではありませんが、先の文春の記事と合わせて読むと、どこか意味深に思えます。

また、信憑性という点ではさらに下がりますが、2ちゃんねるの過去ログからもいくつか気になる噂話が見つかりました。まずひとつめは上記の噂の真相の記事に絡んでのとある書き込み。
http://mentai.2ch.net/comic/kako/964/964203759.html より)

71 名前: 原作者の 投稿日: 2000/07/23(日) 15:43

勝鹿北星=きむらはじめ=ラディック鯨井というのは、確かに
「まんぱら」にある通り。でも本当の事情は「噂の真相」に近いよ。
要するにキートンの企画や設定は勝鹿氏が作ったが、この人、お話作りがヘタだった。
(ラディック名義の「SEED」の内容の無さを見れば、わかるでしょ)
だもんで、担当編集者がしかたなく原作をやってたというのが真相。
「噂の真相」に書かれた記事は、この編集者が頭に来て、勝鹿氏から
印税のキックバックを取ってたというのが、
「架空原作者」として不正確に伝わったの。
途中からキートンの内容が薄くなったのは、担当が変わったから。
以上、ある漫画家の人から仕入れた内部情報でした。


(引用者注:「まんぱら」にある、とはこの記事 のこと)

また、別の場所ではこのような書き込みもありました。
http://human4.2ch.net/test/read.cgi/uwasa/1012643054/749-848 のキャッシュより)

756 :名無しさん@お腹いっぱい。 :03/06/25 17:50
浦沢直樹に関する噂

「マスターキートン」の原作は「勝鹿北星」になっているが
実は浦沢は勝鹿の原作をほとんど使わず、自分で描いていたらしい。
(ネタだけ使っていたということ)
勝鹿は「話を使ってもらえないのに原作としてクレジットされ
金をもらっている」ことに悩み、同じく原作者の雁屋哲に相談した。
それを聞いた雁屋はあるパーティで浦沢を問い詰めたという。


ここにもまた雁屋哲氏の名前が出てくるという。これらの噂がまっさらの真実ということはないでしょう。しかしながら過去にこのような噂があがっていたこと、そして奇しくもこれらの噂と今回の文春の記事はベクトルの向きが異なるとは言え点と線の結びつき方を同じくしていることを考えると、根も葉もない噂ではなく、一抹の真実を含んでいるように思えます。そして文春の記事もまた完全な真実かどうか疑問を感じます。何より文春の記事では雁屋哲氏のコメントはありませんし。(氏の政治的思想と文春のカラーというのもひょっとしたら影響しているかもしれませんね。)

少なくともわかるのは「MASTERキートン」の原作をめぐってゴタゴタがあっただろうこと、そしてそれに絡んで浦沢・長崎サイドと勝鹿氏の親友である雁屋哲氏が揉めていただろうことくらいでしょうか。真実が全て明らかになることは恐らくないでしょうが、当事者の一方である勝鹿氏が亡くなった後にこのようなスキャンダルが起こるというのは、とても残念なことです。

それと、今回の記事のソーシャルブックマークを見ていて、雁屋哲氏=武論尊氏と捉えている人がけっこういましたが、調べた限りでは武論尊氏=史村翔氏ではあっても雁屋哲氏≠武論尊氏の可能性が高いことをここに記しておきます。それぞれの経歴に関する情報はこちら。
雁屋哲氏  武論尊氏